持続可能な社会の実現には、企業の成長、そして一人ひとりの幸福が欠かせない。T&Dホールディングス代表取締役社長 森山昌彦氏とフリーアナウンサーで東洋学園大学現代経営学部教授の八塩圭子氏が対談。サステナブル(持続可能)な社会の実現に向けて、企業・教育機関それぞれの立場から若い世代への期待を語った。
共有価値の
創造を通じて
八塩 T&Dホールディングスは2024年4月に設立20周年を迎えるそうですね。あらためて、T&D保険グループの成り立ちやビジョンを教えてください。
森山 私たちは家庭市場の太陽生命、中小企業市場の大同生命、乗合代理店市場のT&Dフィナンシャル生命の3社を中核とする保険グループです。T&Dホールディングスはグループの持ち株会社として2004年に設立されました。20周年を機に、さらなる成長を通じて社会に恩返しをする使命があると考えており、グループ長期ビジョン「Try & Discover 2025~すべてのステークホルダーのしあわせのために~」においても、経済的価値と社会的価値の双方を創出する「共有価値の創造」を経営戦略の中心に掲げています。
八塩 共有価値の創造は私の研究テーマでもあるので、とても共感できます。SDGsは環境と社会と経済の3つの面からサステナビリティの実現を目指すもの。サステナブルな社会であるためには、経済的にもサステナブルでなければいけない、そうでなければ企業が存続できず、社会貢献もできませんよね。社会のためと自社のため。両立できる形態が企業にとっての理想だと思います。
森山 そのとおりだと思います。企業は社会の公器ともいえますので、健全に利益を積み上げていくことと、社会に貢献していくことがイコールでなくてはいけないと考えています。
八塩 サステナブルな社会の実現に向けた具体的な取り組みとしてはどのような活動をされていますか?
森山 例えば、太陽生命では人生100年時代を誰もが元気で長生きできるよう、認知症や重大疾病などを保障と予防の両面から支える「予防保険シリーズ」を展開しています。大同生命では運動量に応じて保険料を割引する商品「会社みんなでKENCO+」を提供するほか、中小企業の健康経営を支援する「KENCO SUPPORT PROGRAM」の中で定期的にウォーキングキャンペーンを開催し、参加者の歩数に応じて子どもたちの食事代を寄付する取り組みも実施しています。
八塩 自分の行動で社会貢献できるのは、モチベーションの維持にもつながりますね。SDGs全体に言えることですが、自分のためだけという動機にはいつか限界が訪れます。一方、身近な人や社会のためといった気持ちは継続しやすい。一人ひとりが行う支援を、企業が出資して後押ししてくれているのはありがたいですね。
森山 また、機関投資家としてESG投資に取り組むほか、コーポレートベンチャーキャピタルを立ち上げており、社会課題解決に資する事業への投資も行っています。まさに、企業として健全に利益を積み上げていくことがサステナブルな社会への貢献につながると考え、これからも様々な価値の提供に取り組んで参ります。
多様な人材の
活躍に向けて
八塩 サステナビリティの考え方は徐々に広まっていますが、将来的にはあえて言葉にしなくても、誰もが持続可能性の視点を当然と考える社会にしたいですね。若い世代にはすでにその兆候が見えます。大学で接する学生たちも、環境や人権問題は社会全体で解決するのが当たり前と感じている印象です。私たち社会人も、教育や振る舞いで次世代にSDGsの意識を伝えていかなくてはなりません。
森山 企業側も変わる必要性を強く感じています。例えば、女性が活躍できる機会の創出やコンプライアンス問題。私たちも様々な取組みを進めてきましたが、無意識の偏見が残るなど、まだ十分とはいえない面もあります。多様な人材が活躍できる環境を整備するためには、制度を拡充させるだけでなく、なぜそれが問題なのか、本質的な部分を共有できるような風土づくりが重要ですね。
八塩 アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)には私も日々、気をつけています。自分が決めつけないのはもちろんですが、学生にも思い込みに捕らわれず、存分に能力を発揮してほしいと教えています。
森山 企業が大きな目標を成し遂げるためには、個人の力が欠かせません。企業の原動力は従業員です。今後はチャレンジングな発想を生かせる環境づくりなど人的資本経営へ注力するとともに、従業員一人ひとりの業務と社会貢献の結びつきを明示していきたい。T&D保険グループで働いて良かったと感じてもらえれば、それが社会貢献につながるのではないでしょうか。
八塩 社会が幸福であるためには、まず企業が、そして一人ひとりの従業員とその家族が幸せでなくてはならないと考えています。T&D保険グループの取り組みは、社会、企業、個人を幸せにするための大きな役割を担っているのですね。
未来を考える場の創出
八塩 大学で講義を持っていると、教室の中だけの学びには限界があると感じます。リアルな社会の中で、双方向的にコミュニケーションを取りながら実践を積む。様々な企業やメディアを巻き込み、社会全体で教育の場を提供することが若手育成には重要だと思います。
森山 企業としても、産学連携の機会を通じた、ともに未来を考えていく場の創出を意識しています。その一環として、T&D保険グループは「日経ソーシャルビジネスコンテスト」「スタ★アトピッチJapan」に協賛しています。いずれも「Try & Discover(挑戦と発見)による価値の創造を通じて、人と社会に貢献するグループを目指す」私たちの企業理念と同様の志を持って社会課題に取り組む次世代のリーダーや企業ばかりで、ソーシャルビジネスが幅広い世代で確実に広がっていることを実感しています。また、(家業を継いだ経営者が新規事業に挑む)アトツギベンチャーの方々は昔からのノウハウを生かしながら新たな挑戦を続けており、彼らなら持続可能な社会を実現してくれるだろうと期待しています。
八塩 中小企業の事業承継は、私が所属する学部でも話題になることが多いです。今ある企業としての土台を、新しい事業に発展させたいという学生が多く、彼らを支援する取り組みは社会にとっても必要だと思います。若い起業家に感心するのは、社会や身の回りの人を幸せにしたいという思いから出発していること。多くの学生が社会課題解決の切り口で学んでおり、SDGsを重視する世の中の風潮を敏感に捉えながらチャレンジしています。これは学生にも伝えているのですが、新型コロナウイルス禍を経た今は、新しいことに挑戦する好機。これからも臆することなく、既成概念にこだわらない新しいアイデアを提案していってほしいです。
森山 日経ソーシャルビジネスコンテストの出場者をはじめ、若い世代の熱意や発想には驚くばかりです。コンテストではビジネスとしての持続性といった観点での評価もしますが、完成形を求めているわけではありません。アイデアのタネでいいんです。新しい視点や思いを応援するために我々企業があるので、社会を変えるための「第一歩」を、勇気を持って踏み出してほしいと思います。