TCFDに基づく気候関連財務情報の開示

金融安定理事会(FSB: Financial Stability Board)によって設置された気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD: Task Force on Climate-related Financial Disclosures)は、気候変動がもたらすリスクと機会について明確で比較可能、かつ一貫した情報開示のための提言を策定し、2017年6月に公表しました。気候変動は地球規模の課題であり、その影響は世界の経済行動と社会の変化を通して人々の暮らしに大きな影響を及ぼします。T&D保険グループはTCFDの提言に賛同を表明するとともに、わかりやすい気候関連財務情報の開示に積極的に取り組んでいきます。

【気候関連財務情報の開示】

ガバナンス

取締役会による監視

経営の役割

戦略

*1 台風や洪水など異常気象による自然災害や、平均気温上昇や海面上昇などによりもたらされる事業上のリスク

*2 低炭素・脱炭素社会に移行(温室効果ガス排出量を大幅に削減)するための、行政・企業・消費者の行動によりもたらされる事業上のリスク

シナリオ分析:各シナリオの世界観

1.5℃シナリオの世界 4℃シナリオの世界
■前提
  • 厳しい温暖化対策を取った場合。今世紀末までに年平均気温は1.0~1.8℃上昇。
■概観
  • 平均気温の上昇により、自然災害が頻発、激甚化(ただし、一定のレベルに抑制)。
  • 厳しい温暖化対策の導入により、各企業の事業コストが増加。
  • 低炭素・脱炭素対応のため、技術革新が進展(新規プレーヤーも登場)。
  • 低炭素・脱炭素に対応できない企業からの投資引き上げ・投資回避。
■参照シナリオ
  • RCP2.6に基づく物理的リスクに関するシナリオ
  • NGFSのDisorderlyとOrderlyカテゴリに基づく移行リスクに関するシナリオ
■前提
  • 現状以上の温暖化対策を取らなかった場合。今世紀末までに年平均気温は3.3~5.7℃上昇。
■概観
  • 平均気温が大きく上昇するため、自然災害の頻発、激甚化による影響は甚大なものに。
  • 海水面上昇・高潮や洪水・豪雨により、沿岸域に大きな影響(生活様式、BCPの見直しも必要。企業の事業コスト増加)。
  • 自然災害に対して脆弱な企業からの投資引き上げ・投資回避。
■参照シナリオ
  • RCP8.5に基づく物理的リスクに関するシナリオ
  • NGFSのHot House Worldカテゴリに基づく移行リスクに関するシナリオ
↓
平均気温の上昇等により生じる物理的な影響(1.5℃シナリオ<4℃シナリオ)
[急性]
  • 台風や洪水のような自然災害の頻発、激甚化。
  • 台風・洪水など異常気象の増加により、自然災害による負傷・死亡者数が増加。
[慢性]
  • 降雨や気象パターンの変化、平均気温の上昇、海水面の上昇。
  • 平均気温の上昇により、熱ストレスによる死亡者数、熱中症搬送者数が増加。
  • 媒介生物の生息域拡大により、感染症罹患リスクが上昇。
低炭素・脱炭素社会への移行により生じる影響(1.5℃シナリオ)
[政策、法規制]
  • 温室効果ガス(GHG)排出に関する規制の強化や炭素税の導入。情報開示義務が拡大(企業の事業コスト増加)。
[技術の発展]
  • 既存技術の低炭素化や、再生可能エネルギー・蓄電池・EV等の新規技術の導入が進展。
  • 新たなビジネスチャンスを掴み成長する企業が登場する一方、低炭素・脱炭素対応ができず退場する企業も発生。
[投資家の行動変化]
  • 規制に対応できない企業、既存のGHG排出事業から脱却できない企業、座礁資産化する化石燃料を資産計上している企業等への投融資は縮小。低炭素・脱炭素対応に寄与する企業への投融資が拡大。

シナリオ分析:当社グループへの影響と対応策

1.5℃シナリオ 4℃シナリオ
物理的リスク
保険収支への影響
  • 熱ストレスによる死亡者数、熱中症搬送者数が増加。
  • いずれも長期間かけて緩やかに上昇することから、保険収支への影響は限定的。
  • 保険料率の見直しを適切に実施することにより対処していく。
  • 平均気温の大幅な上昇により、熱ストレスによる死亡者数、熱中症搬送者数とも、1.5℃シナリオよりもさらに増加。
  • いずれも長期間かけた緩やかな上昇ではあるが、1.5℃シナリオよりも上昇幅は大きくなる。
  • 保険収支に大きなマイナスが生じないように、保険料率の見直しをより精緻に実施することにより対処していく。
BCP対応
  • 大規模災害の発生により重要拠点の機能が停止した場合に備え、別拠点での業務継続計画を策定済み。
  • 自然災害の激甚化に対応するため、ハザードマップ等により拠点の危険度を評価し、重要拠点の移転やバックアップ拠点の新設、ITを活用した遠隔分散対応を適宜実施する。
移行リスク
資産運用収益への影響
  • GHG排出に対する規制の強化や炭素税の導入、低炭素・脱炭素に対応した新規技術への入れ替え、消費者の価値観、行動様式の変化等により、今世紀半ばまでの中期的な時間軸において、当社グループの投資先に大きな影響を受ける業種が存在。
  • 当社グループの投融資先への影響に起因する資産運用収益の毀損を回避するため、再生可能エネルギー事業など、低炭素・脱炭素社会への移行に貢献する事業・企業への投融資活動の推進や、既存投資先へのエンゲージメント等による働きかけをPRI(責任投資原則)に則って適宜実施。
  • 1.5℃シナリオで想定しているような急激な環境変化は生じないため、当社グループの投融資先への影響は、中期的には小さくなる。
  • しかし、今世紀末までの長期的な時間軸では、平均気温の上昇や自然災害の激甚化により、投融資先各企業の事業活動に対する物理的なマイナスの影響が大きく生じるものと想定。
  • 資産運用収益の毀損を回避するため、物理的リスクの大きな企業への投融資を回避・引き上げ。

参照データ:物理的リスク「RCP2.6」「RCP8.5」、移行リスク「NGFS」「Bank of England」シナリオ

シナリオ分析:当社グループの事業機会

気候変動リスク分析の高度化:当社グループへの影響の定量的分析

KPMGコンサルティング株式会社および一般財団法人日本気象協会(以下、日本気象協会)と連携し、気候変動リスク分析を高度化する取組みとして、当社グループへの影響の定量的分析を実施しました。

分析方法

  • 日本気象協会は、物理的リスク分析のために気候変動予測データを1kmメッシュに高解像度化した「高解像度地域気候シナリオデータセット」を開発。
  • 当社グループ向けには、気候変動により将来の日本国内の平均気温が2℃上昇(RCP2.6シナリオ)、4℃上昇(RCP8.5シナリオ)のケースで、「水害による災害犠牲者推計」および「熱中症搬送者数・死亡者推計」のモデルをそれぞれ開発。5種類の気候予測モデルを活用して推計。
  • 2100年までの将来期間を「将来前半期間:2026~2050年」と「将来後半期間:2051~2100年」に区分し、物理的リスク分析を実施。

分析結果

災害犠牲者

  • 将来的な降雨量の増加は地域によるバラつきが存在(地域によっては減少)。
  • また、強大な台風が発生する割合が高くなるが、台風の発生数自体は減少。

→2つのシナリオとも、極端な豪雨事例で災害犠牲者数が急増することもあり得るが、期間全体としては横ばい。

熱中症搬送者・死亡者

  • いずれのシナリオでも、将来前半期間はそれほど大きな変化は生じない。
  • 将来後半期間になると、猛暑日・熱帯夜日数が増加。特にRCP8.5シナリオでは、猛暑日日数が現在よりも1カ月以上増加。

→2つのシナリオとも、将来後半期間に熱中症搬送者数・死亡者数が増加。

当社への影響

  • 分析結果を元にした試算の結果、より影響の大きいRCP8.5シナリオでは、基準期間(2006~2025年)と比べ、将来後半期間に「5.1~16.3億円」(当社グループの支払保険金・給付金の約0.1~0.3%に相当する水準)の保険金・給付金増加となった。

* 下記のグラフは5モデルの平均(将来後半期間に「10.7億円」の増加)。

グラフ:影響額:RCP8.5シナリオ(億円)、2051~2100年には熱中症死亡、熱中症入院、災害死亡の合計で17.71

リスク管理

リスクの特定・評価プロセス

リスクの管理プロセス

気候変動関連リスクの管理

①物理的リスク

  • 大規模災害リスク(保険引受リスク)とあわせ、再保険の活用等による保険収支悪化の緩和を検討
  • 既存商品をモニタリングし、商品改定等の対応を適切に実施

②移行リスク

  • 責任投資原則(PRI)に基づき、気候変動関連リスクを考慮した投融資を実施
  • 経済政策や法規制等の変動動向をモニタリングし、「グループサステナビリティ推進委員会」や「グループ経営推進委員会」において、グループ全体で情報を共有。当社グループの対応が上場企業として求められる水準から劣後しないよう取組みを実施

指標と目標

ネットゼロ達成に向けたロードマップ

図:ネットゼロ達成に向けたロードマップ SCOPE1,2 2025年40%削減、SCOPE3 2030年40%削減、再エネ化推進 2030年60%再エネ化。2050年ネットゼロ、再エネ100%

CO2排出量削減目標

対象 目標
自社排出(Scope1・2) 2025年度:40%削減(2013年度比)
2050年度:ネットゼロ
投融資先(Scope3:カテゴリ15) 2030年度:40%削減(2020年度比)

* 対象は国内上場企業の株式、社債、融資

2050年度:ネットゼロ

再生可能エネルギーの導入推進